どこの工務店も、設計事務所も予算を超えてしまう。
もう自分達にやれるだけのことはやった。あの土地はあきらめよう。
今週の初めには、2人ともそう思っていた。
特約の期限は金曜日。もう時間がない。
火曜日、予算内で見積もりを出してきた工務店がある、と
仲介業者のN氏が喜色満面で電話をかけてきたとき、N氏には悪いが
正直、もうそっとしておいてくれ、もうたくさんだと思った。
そもそも、予算内だった大手メーカーの見積もりがもれだらけ、だったことから
話は始まっている。素人の私たちがどうやってその精度を測れるというのか?
また、安ければ安いで「手抜き工事」の不安が頭をもたげる。
もちろんそんな悪どい工務店ばかりでもないだろうが…
サイトで読んだ「手抜き工事」「欠陥住宅」の事例が次々と浮かんでくる。
工務店と直に渡り合って、それらを防ぐことができる自信は、残念ながらない。
もうほんと疲れちゃいました、と
月例報告で訪ねてきた顧問税理士に愚痴をこぼす。
顧問と言っても年は近いし、ご自身もつい最近マンションを購入したばかりなので
わりと親身に、お金の面以外にもいろいろとアドバイスをくれるのだ。
すると、自分が顧問をやっている設計事務所がすぐ近くにあるから、
話を聞くだけでも聞いてみたらどうか、と言って下さった。
設計事務所はいくつも訪ねたが、設計・施工監理料を含めると
予算内におさめる事は難しいからもういい、あきらめます、とこたえたのだが、
そのひとはローコスト住宅を主に手掛けているらしいから、と強くすすめられ、
その場で連絡を取って下さったので、不承不承会うことになった。
それが建築士T氏だった。
半ば義理を果たすため、と消極的な気持ちで事務所を訪ねたのだが、
作品を見せていただいたりお話を伺っているうち、
だんだん「攻め」の気持ちが戻ってきた。T氏はいくつかの大学で
教鞭をとっておられるということで、語り口調はいかにも研究者然としており、
熱っぽく人を鼓舞するという雰囲気はみじんもない。
なのに、こういう人が「できないとは思いません。おそらく可能でしょう」と
淡々と言い放つと、妙な迫力と説得力があるから不思議だ。
俄然やれそうな気がしてくる。
あるいは、聞きもしないのに「今こんな面白い素材があるんですよ、
こんど○○に使ってみようと思って…」などウットリした目で延々と話し続ける
あたりに、同じヲタ心を持つ者同士のバイブを感じたのかもしれない。
工務店が提出してきた見積もりにも目を通してくださり、
良心的か否かを見分けるポイント、のようなものも教わった。
それによると、ほとんどの工務店が良心的といってよく、
それほどあこぎな見積もりを出してきたところはないとわかって一安心。
私たちとしては、仲介業者の連れてきた工務店に施工してもらい、
T氏に設計/施工監理をお願いすれば、各方面に顔が立つし、
いいかな、と思っていたのだが、双方とも「やれと言われればやるけど…」と
渋い顔。そういうところはなかなかデリケートな問題らしく、
思いどおりにはいかなそうだ。